2026.09.29 /

あの星空に会いたくて

私の父の実家は中国地方の山間部にある。
私は小学生の夏休みをよくそこで過ごした。今から35年ほど前のことだ。
そのころ、もうすでに珍しかったが、なんとその家は五右衛門風呂だった。
そこで、2歳上の兄と1歳下の従弟とともに風呂焚きをするのがそこで過ごす間の私たちの仕事だった。
さらに、トイレは母屋の外にあった。厠と言ったほうがいいかもしれない。
私の思い出の星空は真夜中の厠までの道のりにある。
ある夏、高学年になった私は、深夜、初めて一人で厠へ向かった。
その家は山の中にあるが、南側が少しひらけていた。
そのため、玄関を出た瞬間、空を見上げるまでもなく目の前に星空が広がった。
さらに空を見上げると、星が降ってきた。
「満天の星空」という言葉がすっと腑に落ちた瞬間だった。空が光り輝いて見えた。
私は厠に行くことも忘れ、その場に数分間立っていたように思う。
今でも目をつぶればその光景が浮かんでくる。
もちろん、35年もたっているので、少し美化しているのかもしれない。
しかし、思い出とはそういうものでいいのだ。
毎年、夏になるとあの星空に会いたくて、今では住む人が祖父母から両親に変わったその家を妻や子供たちと訪れている。