2025.11.04 / トピックス
【100周年事業/同時企画】あの人の心に残る、はじめての星空(Episode 3)

各界の著名の方々に、初めて心に残った星空の記憶を寄稿いただく【100周年事業 「心に残る、はじめての星空」】の同時開催のシリーズ企画です。
※ 以下敬称略
Episode1 : 渡部潤一 自然科学研究機構 国立天文台 上席教授(9月1日公開)
Episode2 : 井上あずみ 歌手(10月1日公開)
Episode3 : 吉川 真 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授(11月4日公開)
Episode4 : 佐治晴夫 北海道美宙天文台 名誉台長 (12月1日公開予定)
Episode5~: 順次公開予定
Episode 3:吉川 真 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授
星を見ることに興味を持ったのは、小学5年生の頃です。親にねだって口径10cmの反射望遠鏡を買ってもらい、栃木市にある自宅の庭で毎晩のように望遠鏡を覗いていました。遠い過去の記憶として思い出されるものは、最初に見た土星の姿。図鑑に出ている写真のような立派なものではないですが、真っ暗な空間に小さいながら環を持って浮かんでいる姿を見て、宇宙の不思議さの虜となりました。それが、現在の仕事に繋がったのだと思います。
では、なぜ、急に星に興味を持ったのでしょうか。小さい頃は虫や、理科の実験・工作が好きでした。それがどうして星にも興味を持ったのでしょう。ふと、父親が「天文年鑑」を買ってきたことを思い出しました。実家の物置を探してみると、誠文堂新光社が発行した1971年の「天文年鑑」がありました。1971年というと、9歳、小学3年生から4年生の頃です。小学生にとってはちょっと難しすぎる本を父親が買ってきた理由は謎です。久しぶり(55年ぶり?)に開いてみますと、最初のページに人工衛星「おおすみ」が夜空を移動している写真が載っていました。あ、実はここで運命が決まっていたのですね・・・。

【略歴】
1962年、栃木県栃木市生まれ。理学博士。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)准教授。JAXAでは、「はやぶさ」および「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャ、ミッションマネージャを務め、現在、プラネタリーディフェンスチーム長。科学誌「Nature」が選ぶ2018年の10人(The 2018 Nature's 10)に選出された。
Episode 2:井上あずみ 歌手
私は小学4年生から地元のテレビ局が主催するMRO児童合唱団に所属していました。5年生の夏休み、なんとウィーン少年合唱団が来日してジョイントコンサートをするという一大事があり、合唱団で合宿トレーニングをすることになりました。合宿所のある卯辰山(金沢市の郊外)で見た満天の星空が、私のこころに残る一番の思い出です。小さな星がたくさん集まって大きな夜空を彩るように、私たちの小さな歌声もみんなで力を合わせて美しいハーモニーを奏でようと心をひとつにしました。合宿の成果もあり公演は大成功、終演後にはウィーン少年合唱団の指揮者の先生に声をかけられ握手しました。何を言ってるかは分かりませんでしたが、きっと「君はすばらしい歌声をもっている、これからも頑張ってください、期待しています」と言っていたんだろうと思うことにしました(笑)。
それから50年、自分の歌を信じて歌手になり、それからずっと歌手として人生を歩んできました。今はまだ完全復活に向けてリハビリを続けながらですが、これからも歌手として生涯をまっとうしたいと思います。

【略歴】
86年に『天空の城ラピュタ』エンディング「君をのせて」を歌い注目を集める。続く『となりのトトロ』『魔女の宅急便』などスタジオジブリ宮崎駿監督作品の主題歌やイメージソングを歴任。
2023年8月、40周年記念公演の当日に脳出血で緊急搬送。1年半のリハビリを経てステージに復帰した。
Episode 1:渡部潤一 自然科学研究機構 国立天文台 上席教授
初めて夜空を意識したのがいつの頃だったのかを考えるたびに思い出す景色がある。
おそらく、幼い頃住んでいた社宅の庭で、親父の肩車にのって眺めた空だ。東の山の端から顔を出したばかりのまん丸な満月がぽっかりと浮かんでいた。
物心がついたのは福島県でも比較的なだらかな地形が続く阿武隈山地の中の棚倉町というところだった。小高い山々が四方を囲んでいるが、子供ながらに山は大きく見えており、その山の端に上った真ん丸の月の輝きに驚いていた覚えがある。夕暮れではあったが東の空はオレンジ色にはならずに青色のままで、そこに真っ白な水晶玉のような月が浮いていたのがとても印象的だった。
それからだろうか、夜空を見上げる機会があれば、月を探し、星を探していた。もしかしたら、その頃にはすでに望遠鏡が欲しいとねだったのかもしれない。小学生になる頃には、小さな小さな屈折望遠鏡がすでに手元にあったからだ。
年に何度かは阿武隈山中に行く機会があるが、今でも満天の星や輝く月が同じ顔をして迎えてくれるのは嬉しいものである。

【略歴】
1960年福島県会津若松市生まれ。
理学博士。東京大学理学部天文学科卒、東京大学東京天文台、自然科学研究機構国立天文台副台長を経て、現在、上席教授・天文情報センター長、総合研究大学院大学教授。
国際天文学連合では惑星定義委員として準惑星という新カテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えた。